2024.03.25

石綿(アスベスト)関連法規のポイント

令和2年6月5日、大気汚染防止法の一部を改正する法律が公布され、一部の規定を除き令和3年4月より施行されています。

また、令和2年7月1日に石綿障害予防規則が改正されて、一部の規定を除き令和3年4月から施行されています。

これらの改正ではアスベスト含有建材の解体等工事における飛散・ばく露防止を目的とし、「規制対象建材の拡大」「事前調査の信頼性の確保」「罰則の強化・対象拡大」

「作業記録の作成・保存」が実施されています。

今までアスベストに関する規制は環境省、厚生労働省によって進められて来ましたが、下地調整材や塗料関連については所轄の自治体の解釈も微妙に異なるといった例も見られ、

施工者として何をすべきかが正直よくわからない状態でした。今回の改正で塗装改修工事についても「必要な事」「不必要な事」がかなり明白になったので、

出来る限り簡潔にまとめていきます。

 

アスベストとその危険性

まず健康被害を引き起こす恐れのある「アスベスト」とは、天然に産出する繊維状ケイ酸塩鉱物の総称で、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)など6種類があり、

これらを重量比0.1%を超えて含有するものが法規制の対象になります。アスベストの繊維は細く、飛散すると空中に浮揚しやすく、吸い込んでしまうと10年から50年という長い年月を経て癌や中皮腫といった悪性腫瘍を発症することがあります。

このため1975年より段階的に法規制が行われ、2006年には0.1%超の製品は全面禁止とされています。

しかし1970年代から1990年代が日本国内でのアスベスト使用のピークであり、アスベストを使用している民間建築物の解体ピークは2028年ごろと見られる事から、更なる法整備が急がれていました。

 

改正ポイント:規制対象の拡大~レベル3の追加で除去作業が今までの5~20倍に!~

改正点その1は「規制対象の拡大」です。今まで規制対象となっていなかった石綿含有成形板等も適切な飛散防止措置が行われない場合には石綿飛散の怖れがあることから、

規制対象が「全ての石綿含有建材」へと拡大されました。これまで主に規制の対象となっていた石綿は、吹き付け材に使われたもの(レベル1)と、

保湿材・耐火被覆材・断熱材に使われていたもの(レベル2)で、国内で約100万トンの使用量と見込んでいましたが、改正により、国内で約700万トンの使用量と見込まれる石綿含有成形板(レベル3)を含む、全ての石綿含有建材へと規制対象が拡大されました。

新たに規制対象となったレベル3建材は戸建て住宅に多く使用されており、石綿を建材として使用した約90%がレベル3建材だと推定されています。そのため、石綿除去作業の件数は、現在の5〜20倍になると予想されているのです。

アスベストが使用されている建築物の解体等、封じ込め・囲い込みの作業は「発塵性が高い順(危険度が高い順)」にレベル1~レベル3の3段階に区分されています。

塗装改修工事でおなじみの吹付タイルやリシンなどの仕上材、セメントフィラーなどの下地調整材、窯業系のサイディングボード、フレキ板、ケイカル板1種、天井の吸音板、屋根の波スレート、化粧スレートなどで0.1%以上アスベストを含有するものはレベル3に分類されます。

 

改正ポイント:事前調査方法を法定化、調査・届け出の義務化、罰則の強化

令和3年4月施行の大気汚染防止法等の改正で調査方法等が明確に規定されました。事前調査(書面調査及び現地目視調査)は、全ての建築物や工作物の解体・改造工事で必要です。

事前調査でアスベスト含有の有無が明らかにならなかった時は、現地でサンプルを採取して分析による調査を行う必要があります。

調査実施者は元請業者または自主施工者で、同時に発注者側にも調査や工事に対しての配慮を求めています。

 

ただし、以下のケースについては事前調査を行わなくてもよいとされています。(令和2年11月30日環水大大発第2011301号より)

・「既存の塗装の上に新たに塗装を塗る作業等、現存する材料等の除去は行わず、新たな材料を追加するのみの作業」                 

・「釘を打って固定する、又は刺さっている釘を抜く等、材料に石綿が飛散する可能性がほとんどないと考えられる極めて軽微な損傷しか及ぼさない作業。」

 

つまり既存仕上げや基材に変更を加えない、または極めて小規模な加工の場合が調査対象外に該当します。

戸建塗替え工事の多くは届け出不要という事になりますので少し安心しました。

しかし一方で「電動工具等を用いて、石綿等が使用されている可能性がある壁面等に穴を開ける作業は、これには該当せず、事前調査を行う必要があること。」となっており、

「手工具による不良塗膜の除去、ケレン」「既存シーリング材の撤去」などの作業があれば、調査の対象になると見るべきですが、細部については所轄の労働基準監督署に確認しておいた方が確実です。

 

令和4年4月より事前調査結果の報告が義務化されているのは、以下の工事になります。

・建築物の改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込))

・工作物の解体・改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込))

 

ただしこれは「結果の報告義務」の有無についての規定であり、「事前調査は原則全ての工事で必要」なのでご注意下さい。

また、立ち入り検査対象が拡大、下請けに作業基準遵守が義務化され、改善命令なしに直接罰が適用されるなど、罰則が強化されました。

 

「レベル3」の調査、工事の流れ

今般追加となったレベル3のアスベスト含有建材については、レベル1,2のものに比べて飛散性が低いこと、除去に専門的な機器を擁しないこと、また届け出が膨大な数になることから様々な点が緩和されていますが、下地補修でひび割れをUカットする場合や動力工具での下地のケレンなどが予測される場合は、事前調査の対象となります。ここでは「レベル3」に絞って、まず事前調査の判断と実施する場合の方法についてまとめてみます。

まず前にも触れた通り、改修工事の場合、原則として事前調査は必要なのですが、既存の塗装の上に新たに塗装を塗る作業等であれば事前調査の対象外となります。

事前調査を行う場合は⇨①設計図書その他書面による調査②現地での目視調査の2つを併せて行い、①②で判断できない場合、③現地で採取した対象建材のサンプルを分析して、アスベスト含有の有無を判定します。ただし、アスベスト含有建材とみなして、法に基づく措置を講ずる場合は、分析は要しないこととされています。

現在①②に関しては「可能な限り必要な知識を有する者が調査を実施」となっていますが、令和510月以降は有資格者による実施が義務付けられます。

 

調査者の資格は以下の通りです。

・一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)

・特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)

・一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)

 

このうちで「一戸建て等調査者」は一戸建て住宅および共同住宅の住戸内部のみ調査実施可能となっており、共用廊下やベランダ・バルコニーなどの調査は実施できません。

文章では分かりにくいかも知れませんので、事前調査結果の自治体への報告の必要性と流れについてご確認下さい。

 

調査と作業の留意点

書面調査及び現地目視調査でアスベストの有無が不明な場合が、上記③の分析調査となります。サンプル採取については「採取箇所を十分に湿潤させる」「採取した試料は飛散しないように密閉式の容器に封入」「試料採取後は、飛散防止剤やカラースプレー等を用いた簡易補修により採取箇所からの粉塵飛散を防止する。」など採取から補修までの留意事項が記載されています。

サンプル採取後は専門会社に分析を依頼します。分析には「定性分析(アスベストの有無を判定)」と「定量分析(アスベストの種類と含有量を判定)」があります。

「定性分析」でアスベストが検出された時点で「0.1%以上」とみなして扱う場合、あるいは「定量分析」で「含有量が0.1%以上」となった場合は、作業計画を作成することになります。

「レベル3」の場合でも作業計画の作成は必須となりますが、石綿則・大防法とも届出は不要です。

実際の作業を行うには「石綿作業主任者」の指示のもと、「石綿取扱い作業従事者」が作業にあたります。

この点も必須となりますので、技能講習や特別教育の早めの受講をお奨めします。これ以外にも健康診断、記録の保管、所定の大きさの掲示板の設置などの項目がありますので、あらかじめご確認下さい。

 

 

石綿(アスベスト)は、その粉じんを吸入することにより、肺がん、中皮腫等の重篤な健康障害を引き起こすおそれがあります。

過去に輸入された石綿の大半は建材として建築物に使用されており、建築物に既に使用されている石綿の劣化等による飛散や建築物の解体・改修等の工事における石綿ばく露が懸念されます。

危険性などを理解し、厚生労働省で公表されている「石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル」や、「石綿則の事前調査に基づくアスベスト分析マニュアル」などを確認し、対策を行うことが必要不可欠です