2024.04.01

色についてのあれこれ

集合住宅、戸建住宅に限らず、塗替え工事の際には色彩の確認、選定という作業があります。

現状色の確認であれば現場での色拾いという事になりますが、使用するのは塗装工事の場合、日本塗料工業会の色見本帳(通称日塗工見本帳)や、各塗料メーカーが発行している見本帳になります。

塗替え色が「現状のまま」なら問題はないのですが、せっかく新たな色を選んでもらって塗ったのに、後で「思っていた色とは違う!」などとクレームがついてしまうとせっかくの塗替えも台無しです。

今回は色彩クレームを避けるポイントも交えながら色・色見本帳について記してみます。

 

色決めの必需品『日塗工見本帳』~常に使用者の目線で進化~

ひと昔前、塗料販売店新人がまず困るのが「ビニペンの341、ドウコで3缶!」の様な「用語がわからない事」でした。

しばらくするとどうも3桁、4桁で言われる番号は「ニットコウ」と言われる見本帳の中にある色の事だと分かります。

誰でも知っているこの『日塗工色見本帳』は、1954年初版以来K版で34版を数える色彩設計・塗料受発注のための必需品です。

S版まではトーンごとに有彩色3桁番号、無彩色を4桁番号で表示していました(写真例:P版)が、1995年T版からマンセル表色系の色相・明度・彩度と関連付けた現行の形式に変わりました。

当初は彩度の高い色もその色相に組み込まれていました(写真例:T版)が、現在ではまとめて末尾に記載し、艶消し色も加えるなど利用者が使いやすい形へと変化しています。

色拾いの際に使用する「比色マスク(右写真参照)」も窓数は減っていますが、使い方を明記するなど細かな配慮が行き届いています。使用するにあたってのポイントは主に以下の点です。

①「塗料用標準色の概要」の「3.色票および表に付記された記号」内のや(特定の塗料で出にくい色)が付いている色に気を付ける。

② 版が新しくなる時に削除になっている色もあるので、必ずしも最新版が全ての色をカバーしている訳では無い。

  (=古い版にはあるが新しい版にはない色もある。)

③ 色の指定は色票番号(例:19-80B)で行う。横に記載されているマンセル値(例:10YR8/1)での色指定は行わない。

この日塗工見本帳の「2021年度L版」は色数はK版と同じ654色ですが、つや消し色を増やした構成になっています。

 

DIC見本帳』~色数の多いグラフィックユースの見本帳~

日塗工見本帳の色ではなく、まれにDIC見本帳にある色の指定を受ける事があります。

DIC見本帳にはカラーガイド(各々が600色以上を収録)が2種類あり、それぞれカラーチップ形式の本体3冊とカラーセレクター(インキ配合表)1冊で構成されています。

他に「日本の伝統色」「中国の伝統色」「フランスの伝統色」といったカラーチップ形式の見本帳が存在します。写真をみてお分かり頂けるように、グラフィックユースとして広く流通しているだけあって、

透明度の高い色や鮮やかな色、濃い色が多く、日塗工見本帳と基本的には別用途という事がよく分ります。

DIC見本帳の色番号、注意点については下記の通りです。

① DIC1~654は「DICカラーガイド」収録色

② DIC2001~2638は「DICカラーガイドⅡ」収録色

③ N701~1000は「日本の伝統色」、F1~322は「フランスの伝統色」、

  C1~320は「中国の伝統色」にそれぞれ収録されている。

④ 指定色の見本帳が塗料メーカーにある場合は問題ないが、ない場合は調色のためカラーチップを調色工場に送付する必要があるので納期がかかってしまう。

⑤ 見本帳それぞれが約1万円から1万5千円と日塗工見本帳の数倍の価格である。

価格に関しては、例えば「パントンカラー」見本帳などはさらに高く、使用頻度を考えるとなかなか揃えにくいのですが、DICもパントンも販売元ホームページで色の検索ができるので、

どんな色かを知りたい時にはおおよその色が分かります。しかし実際に調色品が必要な場合、塗料メーカーの対応にはバラツキがありますので、予め確認が必要です。

 

色のクレームを避けるには…

色のクレーム原因として主なものは以下の通りです。

 

・「色の面積効果」によるもの

見本帳を渡して色を選んでもらい、その色で塗装して足場を外したら「思った色と違う!イメージ通りじゃない!」というケースです。

「色の面積効果」とは面積によって同じ色でも色味の見え方やイメージが違ってくる効果です。

明るい色は、面積が大きくなるにつれて、いっそう明るい色に見え、反対に、暗い色は面積が大きくなるにつれていっそう暗く感じる現象とされていますが、建物の場合、日照などの加減もあり暗い色でも明るく見えてしまう例も経験があります。

対策としては実際に施工すると選んだ色より明るく見える事を先に伝える事。

カラーシミュレーションで仕上がりイメージを見てもらい、了解を得る事です。ただその際、あくまでイメージである事は忘れずに伝えて頂きたいです。

 

・調色した塗料の色に大きなズレがある

淡い色などでは起こりにくいのですが、一般的に彩度が高い色は水性の建築用塗料では調色する事が難しく、近似、または類似が限界という場合があります。

色決めの段階で日塗工見本帳の表示を確認して避けて頂くか、塗板確認で納得して頂くのが一番いいのですが、そうもいかない場合は発色のいい別の塗料に変更するしかありません。

使用可能な条件であれば弱溶剤塗料へ切り替える。水性しか使えない場合はインターナショナルペイント社製品のように高彩度まで対応可能な水性塗料を使用する方法があります。

 

・色彩条例の遵守と周辺住宅への配慮

2004年に制定された「景観法」に対応し、令和2年3月31日時点で、景観行政団体は、都道府県42団体をはじめ指定都市、中核市、その他の市区町村を合わせると759団体、景観計画策定団体も604団体に及んでおり、

それぞれの自治体で条例・規則が定められています。現場所在地が該当地区に当たる場合は、色相・明度・彩度について細かく定められている場合があるので注意が必要です。

また規則が定められていない地域であっても外壁の反射光は近隣に思わぬ影響を及ぼす事があります。

鮮やかな青で外壁を塗って隣家から「部屋の中が寒々しくなった!」と苦情が来たり、屋根をシルバーで塗ったら丘の上から「まぶしい!」とクレームが来たなどのケースがこれにあたります。

いずれも工事完了後の住民間のトラブルなのですが、予め注意を促してあげる事で「さすがプロ!」と一層信頼されるに違いありません。

 

カラーシミュレーションを上手に使う 

近年、ソフトの使いやすさや低価格化によって「カラーシミュレーション」は珍しいものではなくなり、色彩提案のツールとして定着してると言っても過言ではありません。

顧客が選んだ色で施工した時の「イメージ」を見せられるのは、差別化にもクレーム防止にも効果的です。

そうは言っても多くの場合、それ自体はサービスで、なおかつ人が行う作業ですので、よほどの案件数、利益額が無い限り人一人専属で雇うのは難しいのが実状です。

パソコン内での作業が終わっても、なるべくイメージに近づけるように印刷するのが難しく、印刷設定などは経験の蓄積が全てで教科書などはありません。

イメージを具現化するだけでもこれだけ大変なのですから、色というのは奥深いものだと感じます。

必要不可欠ではないけれど、時と場合により必要なツールというのが正しい見方かも知れません。