2024.04.16

塗装工事のトラブルと注意を促すべきキーワード

集合住宅、戸建住宅、工事の大小にかかわらずトラブルの危険性は付いて回ります。

皆様もご経験があるかと思いますが、工事内容に起因する場合や、住宅塗替えの業界にも存在するいわゆる「悪徳業者」によるもの、

果ては特異な顧客によるものまでその内容はさまざまです。

「国民生活センター」の相談事例を挙げながらトラブル原因と可能な対策について考えてみます。

さらに重要消費者紛争として実際に調整が行われた事例について、争点となった部分、最終的な和解実例を検証してみます。

皆様がお客様に対し注意喚起できる事例なども含まれていますので、営業活動の際にお役立て頂き、信頼を勝ち得て頂きたいとも思います。

 

相談事例の傾向

インターネット、SNSの普及により、消費者は関係窓口にトラブル相談しやすくなり、相談例が開示されていれば、誰でも閲覧することが可能になりました。

「国民生活センター」のHP内では相談事例の閲覧が可能です。

試しに「外壁」「塗装」「塗料」などのキーワードを入れてみると10年間で65件の事例がヒットしてきました。

いくつか例を挙げてみます。

 

「夫が外壁塗装を契約し、今月2日から塗り替えをし始めたが、塗料の匂いでフラフラし、目がチカチカする。どうしたらいいか。(60歳代)」

「訪問販売で外壁工事を依頼。工事前に業者が足場を組み立てたが、作業中の埃で自動車が故障し、匂いで家族の体調が悪くなった。(30歳代)」

「分別ごみを取りだそうと宅内側から頭部を出した際、リフォーム工事の最下段足場のジョイントに右後頭部を打ちつけ治療中。(70歳代)」

 

このように内容の相違はありますが、「臭気」「怪我」「物損」「塗料付着」「説明」「業者マナー」などいくつかの相談原因が浮かび上がってきます。

その原因となったキーワードを分類してみると相談原因の第一位は「臭気」で65件中なんと48件!、73.8%を占めています。

続いて「怪我」(塗替え後のベランダで転倒して骨折など)が4件、「塗料の付着」が3件、「火災」「物損」が2件と続きます。

この「臭気」48件の内容ですが、自宅・分譲マンションの工事と思われるものが19件、賃貸アパート・賃貸マンションの住民が19件、残り10件は隣家または近所の塗装工事についての相談です。

この「臭気」に関しての相談では、ただ単に臭いというだけでなく「息苦しい」「喉の痛み」「吐き気」「目が痛い」「舌がしびれる」「顔が腫れる」などの語句が続き、「ホテルに避難」「シェアハウスの利用」果ては「引っ越す」などの金銭的補償の相談が含まれるものもあります。

実際には因果関係の「証明」はむずかしいと思われますが、「塗料=臭い=健康障害」の図式が根強い事が見て取れますし、賃貸やご近所など自己所有ではない物件の塗替えの方が要注意という事も言えそうです。 

 

相談事例の第一位「臭気」の対策

実際のところ、どうしても発生してしまう「臭気」について、私たちが「とり得る」対策の一つ目は「説明」して「承認」を得ることです。

施主に対しては「臭気の発生」が予測されること、しかし「乾燥後は臭気が軽減される」こと、外部鉄部では一般的に「弱溶剤塗料が適している」ことを説明して使用承認をもらいます。

出来るなら契約書に告知事項のページを設けて、一つずつ説明の上でチェックを入れ、最後に承認のサインをもらうのがベストです。

ご近所にも工事の挨拶時に「臭気の発生」は告知しておくべきでしょう。

 二つ目の対策としては現状考えうる「臭気対策スペック」の提案です。

住宅外部鉄部であればインターナショナルペイント「水性メタルコート」またはエスケー化研「スマートシリコンW」が候補に挙げられます。

ともに一般的な水性塗料臭はありますが、弱溶剤形に比べると臭気リスクの低減は充分可能です。

しかし臭いの感じ方には個人差がありますので、可能な限り低臭を求めるなら大日本塗料の新商品「アクアマリンタックレス凛(超低臭)」はいかがでしょう。

現行のカタログではアパートやマンションの開放廊下のような「準外部」での使用に限定されていますが、雨がかりの一般外部でも問題なしとの実績が出ていますのでさらに汎用性が高まりました。

下塗材の臭気については一般的な水性塗料臭は避けられませんが、乾燥時間が通常の水性塗料に比べて短縮されていますので、この点は臭気の抑制にもつながります。

 

実際の調整事例とは? 目立つ「事前説明と工事品質の乖離」

国民生活センター紛争解決委員会によるADR(裁判外紛争解決手続)の例

各地の消費生活センター等や国民生活センターへ寄せられた相談のうち、重要消費者紛争に該当する案件で、助言やあっせん等の相談処理による解決が見込めなかったときなどには、国民生活センター紛争解決委員会へ和解の仲介や仲裁を申請することができます。以下に実際の調整例を抜粋してみます。

★★事例1

平成29年8月、相手方が来訪し、自宅の外壁塗装を勧めてきた。

相手方から「光触媒の塗装で15年保証」「3~5ミリの厚さで塗装する」などと説明され、「看板をつけさせてもらえれば宣伝になるので、337万円の工事を140万円に値引する」と言われたので、外壁および屋根の塗装工事の契約をした(契約金額約140万円。以下「本件契約」という。)。

頭金4,000円を支払い、残金は72回のローンとした。施工後、仕上げを確認したが、塗膜は薄く、壁全体に無数のピンホールがあり、屋根には塗装むらもあった。

壁のピンホールは雨水の侵入の恐れもあったため、工事完了証明書にはサインせず、屋根、壁ともに補修を求めた。

しかし、相手方は「ピンホールは下地の影響である。下地の影響を受けることは契約書にも書いてある」と主張した。

何度か相手方と話し合ったが、解決しない。さらに宣伝用の看板については在庫がないため掲示しないと言われた。」

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この事例1では仲介人が現地調査に出向き状況を確認した上で和解の手続きを進め、最終的には施工側が20万円の減額で和解が成立しています。

問題点は第一に「事前説明と工事品質の乖離」、そして「看板を付けさせてもらえれば云々…」でもお判りかと思いますが、

「見本価格商法」として認知されている根拠のない大幅な値引きを伴う悪徳セールス手法です。

さらに頭金4,000円という事実も、記述にはありませんが「今日中に決めてくれれば…」的な匂いがします。

ピンホール、色むらなど塗膜が不完全な状態でありながら、減額ありとは言え、施主は最終的に120万円を支払った事になりますが、

施工内容にふさわしい金額なのかは疑問に感じられます。施工面積が不明なので断定は出来ませんが、皆様はどう思われるでしょうか?

 

★★事例2

平成30年4月、屋外で作業していたところ、相手方が外壁塗装の営業に来たので、その日の夜に改めて話を聞いた。

相手方から、外壁のひび割れについて「早く塗装しないと大変なことになる。セラミック塗装なら30年持つ」と言われたので、外壁塗装と屋根塗装(合計約200万円)を依頼することにした。

翌日、再度相手方が来訪し、契約書を交わした。同年5月から塗装工事が始まり、2日間の作業後相手方から、外壁、屋根、付帯部分のすべての塗装が終わったと言われた。

あまりに早かったので何回塗ったか尋ねたところ、契約時に5回と説明を受けたにもかかわらず、下請け業者は4回と答えた。

相手方の担当者は5回塗ったと主張するが、2日でそれだけの作業をすることは困難と思われる。

それ以外にも、作業内容として説明を受けた塗膜の剥がれ処理のための下地処理や目地の補修が行われていなかったり、当初は「塗れるところは全部塗る」と説明を受けたのに、一部塗ってもらえない部分があるなど、契約時の話と実際の作業内容が違う点がいくつもあった。

相手方に確認を求め、最寄りの消費生活センターにも相談したが、相手方は「外壁塗装については主材が均等な厚みで仕上がっていれば機能は果たしており、一定時間を空けて作業しているので、問題はない」、「目地交換も下地処理も行った」などとして、対応しない。

契約をなかったことにして、未払い金(100万円)の請求を放棄し、既払い金(100万円)を返金してほしい。

また、工事中に相手方が破損した倉庫屋根材割れ等の修理費用(約25万円)を支払ってほしい。

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この事例2については、使用塗料の30年という耐候性について製造メーカーへの質問状送付、塗膜の状態やシーリング施工の有無については現地調査が行われ、メーカー試験データではそこまでの耐候性が得られていない事、塗膜については塗り回数は特定できないが、全体的に塗料が薄く、塗りむら、塗り残しが見られ、シーリングについては打替えの契約に対して増し打ちすら行われていないという結果が出ました。

この後もやりとりが続きましたが、最終的に 施工会社側から本件工事について今後一切の対応を行わないことを条件に、既払い金100 万円全額を返金して契約解除するとの和解案が提示され、両当事者間で和解が成立しています。

こちらも事例1同様、「事前説明」と「工事品質」が大きく乖離しており、曖昧な工事範囲や5回塗りを2日間で済ませたという不可解さなど、施工会社側に不利な条件ばかりが目立ちます。

契約自体も「このままだと大変な事になる。」と不安を煽った部分もあるので、最終的な契約無効は妥当な結末だったとも言えます。

 

■おわりに

上記の2例に共通しているのは「説明と品質の乖離」ですが、つきつめると価格に見合う「顧客満足」が得られていないことが紛争に繋がっています。

文中に実際の契約額が明示されていますが、支払う額と求める結果の差が紛争に発展します。

同一工事でも人によって相場観は異なり、それぞれ期待する品質は別ものです。

いささか暴論ですがはた目には価格が高かろうが期待した満足が得られれば、これは適正価格であり、品質に比して安くても期待に反すれば、価格に見合わない工事という事になります。

大切なのは施工に到るまでの間にコミュニケーションを重ねながら発注側と施工側のイメージを合致させることだと言えそうです。