塗料と関連法規
塗料に関するものとして「消防法」「毒物及び劇物取締法」「産業廃棄物処理法」「労働安全衛生法」などいくつかの法令が挙げられます。
これらが防止の対象としているのは火災、犯罪、環境破壊、中毒による健康被害などですが、ごく最近でも海上自衛隊の潜水艦救難艦の乗員が海中に塗料缶41缶を不法投棄し、産業廃棄物処理法違反で書類送検されたという新聞報道がありました。
今回はそんな事例と共に「産業廃棄物処理法」「毒物及び劇物取締法」「消防法」について塗料や防水材を扱う私たちが気を付けておくべきポイントについてまとめてみたいと思います。
■産業廃棄物処理法の廃塗料の区分
被塗物の保全に貢献する塗料・防水材ですが、他の建築材料同様、廃棄分が生じてしまうのは避けられません。
これらの「廃塗料」や「廃防水材」の分類は下記の通りになります。
①固形状:「廃プラスチック類」
②泥状:「汚泥」(油分を概ね5%以上含むものは、「汚泥」と「廃油」の混合物」)
③液状(水系エマルジョン・水溶性):「廃プラスチック類」と「廃酸」又は「廃アルカリ」の混合物
④液状(溶剤系):「廃プラスチック類」と「廃油」の混合物
⑤シンナーやトルエン等の引火点が70℃未満の溶剤が使用されている場合、「廃プラスチック類」と「特別管理産業廃棄物(引火性廃油)」
の混合物
また、塗料や防水材を使い切った空き容器についても、乾いた塗料や防水材が付着していれば単なる「金属くず」とは見なされず、「廃プラスチック」と「金属くず」の混合物に該当することになり、同様に溶剤形塗料を缶ごと廃棄すれば、廃油と廃プラ、金属くずの混合物ということになります。
最近ではリサイクルの意識も高まり、特定処理後の燃料としての再利用やセメントに混入しての再使用なども行われていますが、廃塗料に使用済みローラーや養生ビニールなどが混入していると工程に支障が生じますので分別をお願いしている次第です。
■報道された不法投棄の例
★★ケース① 手洗い場から河川へ流出
マンション修繕工事に伴うペンキの廃水を大岡川(横浜市港南区)に流したとして、港南署は16日、廃棄物処理法違反(不法投棄)の疑いで、マンション分譲大手の関連会社と、孫請け塗装業者の27歳と25歳の作業員男計2人を書類送検した。
送検容疑は、2009年10月29日、港南区のマンションの外壁塗装に使用した刷毛などを手洗い場で洗浄し、廃アルカリや廃プラスチックが混ざった廃水約1,200リットルを雨水管を通じて大岡川に流した、としている。
手洗い場は別の下請け業者が設置したもので、孫請けの2人は「川に通じているとは知らなかった。洗浄を済ませて早く帰りたかった」などと話していたという。
★★ケース② 宮城市職員、シンナー100リットルを不法投棄
宮城県栗原市は15日、建設課の職員が使用済みのシンナー約100リットルを市有地に不法投棄していたと明らかにした。
本来は産業廃棄物処分場で処理する必要があった。
道路に白線を引く機械の洗浄や塗料を薄める際に使ったもので、市はシンナーが染み込んだ土砂約17トンを撤去した。
★★ケース③ ペンキ入り缶など1.3㌧不法投棄の疑い 塗装業の男逮捕
三重県警松阪署は13日、廃棄物処理法違反の容疑で津市東丸之内、塗装業者(39)を逮捕した。
逮捕容疑は6月29日から10月4日までの間、松阪市嬉野黒田町の雲出川右岸河川敷にペンキが入った一斗缶など廃棄物約1,320㌔を捨てた疑いで、容疑を認めている。
同署の調べでは、廃棄物はペンキが入ったものと空の大小240缶。三重河川国道事務所から通報があり、遺留品から突き止めた。
いずれも廃棄物処理法違反に問われた一例となりますが、不法投棄には「5年以下の懲役または1千万円以下の罰金(法人においては3億円以下の罰金)若しくはその両方 」が科せられます。
これに加えて流出などがあれば復旧費用の他、近隣との民事訴訟が絡んでくることもあり、実際に莫大な額の賠償責任が生ずることになります。
廃棄物の処理責任は元請にありますので十分な注意が必要です。
では、「適切に処理するように」と命令が出ていたにも関わらず、例えば従業員などが勝手に不法投棄を行った場合はどうなるのでしょうか?このような場合は投棄した個人の責任となりますが、会社側が「どのように指導」していたかが問題になりますので、指導に関する記録などを残しておく必要があるでしょう。
また、置き場や倉庫が汚れていると塗料が雨水等で敷地外に流れ出て近隣から苦情が入ることもあります。
全く故意ではないのですが、廃棄物の管理責任を問われてしまいますので十分ご注意下さい。
■塗料と毒物及び劇物取締法
「毒物及び劇物取締法」は保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とし、1950年(昭和25年)末に公布されて以来、品目の追加、変更、除外などを経て現在別表に記載されているものを毒物、劇物に指定しています。
塗装工事業や防水工事業に関係してくる品目と言えば「トルエン」「キシレン」が 挙げられます。
有機溶剤であるトルエンやキシレンは比較的毒性が低く劇物の基準には満たないのですが、いわゆる「シンナー遊び」の横行が社会問題となったため劇物に指定されています。
他には「メタノール」が挙げられますが、いずれも劇物の別表には「原体(100%の純物質)」として記載されており、製品として流通するもの(例えば「T-1」や「トルオール」など)は原体ではないので劇物には相当しません。
ただし「 興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する毒物又は劇物(これらを含有する物を含む。)であって政令で定めるものは,みだりに摂取し,若しくは吸入し,又はこれらの目的で所持してはならない。」とありますので、トルエン・ 酢酸エチル、トルエン又はメタノールを含有するシンナー、接着剤、塗料及びシーリング材等の取扱い、保管はやはり慎重に行うべきです。万が一、盗難または紛失した場合は速やかに警察に通報する必要があります。
原体が毒物・劇物であるもの以外でも、その含有量によって劇物に指定されている商品もあります。
例えば木造住宅のあく洗い工事に使用する「アクロン」「レブライト」「ノーベル」のうち、過酸化水素水30%~40%の「アクロン」は劇物、フッ化水素5%~15%の「レブライト」は毒物に該当します。使用にあたっては当然注意が必要です。
まず、絶対に素手で触ってはいけないのですが「アクロン」「ノーベル」はガス抜きキャップ仕様のため、倒れると中身が漏れます。
何の気なしに指でつまんで立てたりすると…しばらくひどい痛みに苦しみます。もう一つ起こりがちなのが「レブライト」塗付後、拭き取りや乾燥が不十分な状態で「ノーベル」を塗ってしまうケースです。
これをやってしまうと塩素ガスが発生して命にかかわることにもなります。実際に入院された方もいました。
そしてもう一つ、作業するときに手袋は必須ですが、破れていないことを必ず事前に確認して下さい。
こちらも実際にあったケースで、その時は病院の医師から「急いで成分を教えて!」と電話があって事態を知りました。
手袋に穴が開いていてそれに気づかずに作業を始めてしまったのです。
あとで聞いたのですが「ものすごい痛みで、急いで病院で処置してもらったけど、爪がとれちゃったよ。」と仰っていました。
毒物劇物とは関係ないのですが、これから夏になりますのでお気をつけ頂きたいことがもう一つ。
最初は「まさか!」と思いましたが、「シンナー飲んじゃった!」というケースです。
この場合はとにかく速やかに病院に行くしかありません。
下手に水などを飲むと胃の中で水に浮いたシンナーがさらに胃の粘膜を痛めるそうです。
このシンナー誤飲では2度ほど連絡を頂いたことがあるのですが、どちらも塗シンで少量でしたので、幸い大事には至らなかったとのことです。
原因はもうお分かりかと思いますが、シンナーをペットボトルに小分けして何も書かずに放置した事です。
「シンナーなんか臭いでわかるだろ。」と思うかもしれませんが、真夏の作業で体力を削られ頭も朦朧としている状況では決して起こらないとは言えません。ペットボトルを用いたシンナー小分けの際は充分ご注意下さい。
■届出なしで置ける危険物と塗料に潜む危険性
建築で使われている塗料は、水性塗料や指定可燃物に分類されているもの以外、多くのものが危険物の第4類危険物(引火性液体)に分類されています。
この○○石油類というのは引火点の温度に基づいた消防法上の区分で、第3⇨第2⇨第1という具合に引火点が低くなり、危険性が増していきます。
今は大分減りましたが強溶剤形塗料、ラッカーシンナー、エポキシシンナーなどが第1石油類に該当し、弱溶剤形塗料、塗シン希釈のウレタン、塗料用シンナーなどは第2石油類に分類されます。
(有機溶剤作業主任者の技能講習で出て来る第〇種有機溶剤というのは労働安全衛生法内の有機溶剤中毒予防規則の区分で、消防法上の区分とは別のものです。例えば塗料用シンナーは第2石油類、第3種有機溶剤に分類されます。)危険なものほどたくさん貯蔵してはいけない仕組みになっており、その指針となるのが「指定数量」というものです。
第1石油類非水溶性液体(ラシンやエポシンなど)の指定数量1倍は200L、第2石油類非水溶性液体(塗シンウレタンなど)になると1,000Lです。指定数量を超える危険物の貯蔵、取扱いには消防署へ届け出て許可をもらう必要があります。
さて、お客様から「消防への届け出なしで置ける危険物の量」について「少量危険物なら大丈夫?」というお問合せを頂くのですが、この「少量危険物」とは「指定数量の1/5以上、指定数量未満」を指します。
第2石油類非水溶性だと200L以上1,000L未満、塗料用シンナーに置き換えると13缶から62缶の間となりますが、第1石油類非水溶性、例えばラッカーシンナーだと40L以上200L未満となり、3缶から12缶の範囲とかなり少なくなります。
「まあ、この位なら何とかなるかな。」と思えるのですが、実はこの「少量危険物」の場合でも貯蔵、取扱いには、市町村の予防条例による届出を行い、火災予防条例の規制に適合させる必要があります。
結局のところ「届け出なしで置ける危険物の量」は指定数量の1/5未満となりますので、ラッカーシンナーなら一斗缶2缶程度、塗料用シンナーなら一斗缶12缶までとなります。
最近はシンナー類を現場に置けず、都度持ち帰っているという話しも聞きます。この「指定数量の1/5未満の場合のみ届出不要」という概念は知っておいていいかと思います。
ここまで読まれた方は「さすが危険物、厳しいなぁ。」と感じられたかと思いますが、本当の危険は危険物別表の区分では見えないところにあったりします。
第4類に属する塗料は引火性液体ですので、加熱により引火点に達した液面に火を近づければ「引火」するのですが、むしろ通常では起こりえない「自然発火」には本当に注意が必要です。
気を付けなければならないのは原料に「油分を含む塗料(酸化乾燥硬化タイプ)」で、拭き取った塗料が付いたウエスやシートをまとめてビニール袋などに入れて放置してしまうケースです。
このタイプの塗料は酸化反応する事で熱を発生させ、その熱がこもる事でどんどん温度が高くなり、ついには発火してしまいます。
木材用の「自然塗料」「ワックス」には植物性の油を主原料とする、このタイプが見られますのでご注意下さい。
他にも「不飽和ポリエステル樹脂パテ用硬化剤(ポリパテの硬化剤)」も衝撃や異物混入で自然発火の可能性があり、この「不飽和ポリエステル 」はFRP防水施工時に硬化剤のMEKの入れすぎ、追加で自然発火する事があるので注意が必要です。
作業前にカタログや缶に貼ってあるラベルや確認するのも有効でしょう。