2024.05.28

磁器タイル補修・改修材特集

かつては塗装による仕上げが多かった集合住宅の外壁に磁器タイルが使われる様になり、大規模修繕工事での外壁補修、改修において大きな割合いを占める様になりました。

大規模修繕工事においては下地補修工事で樹脂注入や張り替え、タイル工事の一部として薬品洗浄や撥水剤の塗布が行われています。

しかし築年数が長くなり、改修履歴が増えていくと、一筋縄ではいかない現場も出てくる様です。

今回は磁器タイル面の補修・改修にスポットを当てて様々な改修方法・材料についてまとめてみます。

 

環境対応形水系塗膜剥離剤『ハーガスNEO ~既存クリヤー塗膜を全剥離する~

建物調査診断において、まれにタイルの一部が白ボケしている様に見えたり、日焼けした背中の皮みたいに剥がれている状況を見かけます。

これはひと昔前、メインの改修材料であった「シリコンクリヤー」の塗膜です。

施工箇所や程度にはバラツキがありますが、剥離剤での除去以外に対処方法が無く、そのコストを考えると「今回はここは改修無しで…」となりがちです。         

この「ハーガスNEO」も剥離剤ですが、(株)ヤグチ技工は専用の「YGシート」貼り付けを工程に組み込む事で、悩みの種であったタイルクリヤーの剥離工法として確立しました。

「ハーガスNEO」は、従来の剥離剤の様に表層塗膜から溶解させるのではなく、塗膜を溶解させず下地まで浸透して塗膜全体を軟化します。

加えて特化則を始めとする各種法令をクリアし、アスベスト含有塗膜除去工事対応品でもあります。

 

磁器タイル用撥水剤『アクアシール500S

上記のタイル用シリコンクリヤーが使われなくなった後、磁器タイルの改修用塗材は塗膜を作らない撥水剤がメインになりました。

目的はシリコンクリヤーの時と変わらず「目地の劣化防止」です。

撥水剤はシラン系とシラン・シロキサン系に大別され、価格も様々です。

「シラン系」という呼称で包括される表面含浸材の大きな特長は、コンクリート表面にR(Si-O)構造を形成し、撥水性能を付与していることです。

「シロキサン」とは、ケイ素(Si)と酸素(O)が交互に結合するとポリマーが形成されたポリシロキサン骨格(-Si-O-Si-)の事で、この無機結合が非常に強固で安定した構造となるため紫外線の影響を受けにくいことが特徴です。

従って「シラン・シロキサン系」は、「シラン系」の撥水性能と「シロキサン」の紫外線への耐久性を兼ね備えているという事になります。

ここで取り上げる『アクアシール500S』はシラン系です。

タイル面に使用する撥水剤ですが、価格はシラン系よりシラン・シロキサン系の方が高く、耐久力に優れる分、数倍にもなります。

現場の予算、求められる性能などを確認して、必要に応じて選択する事をお奨めします。

 

タイル壁面の防水工法 『セブンS』『クリアコートeco

タイル用撥水剤にも防水をうたっているものはありますが、お客様から「防水材で施工して欲しい」と言われてイメージするのは、やはり表面に防水層を形成する材料です。

㈱セブンケミカルの『セブンS』と大関化学工業㈱『クリアコートeco』が代表格です。

ともにクリヤーの樹脂をタイル表面に重ねて塗布していく工程で、純粋にタイル壁面の防水を目的とした工法になります。

『セブンS』には溶剤形・水性形の各工法があり、他にひび割れ追従性と低温時の物性に優れる『セブンSS』を使う工法もあります。

『クリアコートeco』は水性の工法になります。

仕上がりは微妙に異なりますので、必要に応じて塗板やテスト施工でご検討ください。

 

タイル張り替えの切り札『クローンタイルJ』 ~もうタイル張り替えで悩まない~

磁器タイルは経年により発生する「割れ」「欠損」「陶片浮き」などの不具合により、部分的な張り替えが必要になり、その数は状況次第では数千枚にも及ぶため、建物の美観に関わる重要なポイントとなります。

改修工事に着手する時期には、仕様変更、生産中止で、既存と同じタイルが手に入らない事が多いため、新規に必要枚数を製作する事になります。

しかし、新たに焼成するとタイルの色調がなかなか合わずサンプル作成を繰り返すなど、苦労するケースも出てきます。『クローンタイルJ』は、これらの問題を解決してくれる定番商品です。

特 徴 ①色ずれが少なく依頼も簡単 (写真でも見積り可能。サンプル作成は1~3週間)

    ②小ロットでのオーダーが可能。

注意点 ①ベースとするタイルは一般的なサイズを除き自己手配となる。

    ②塗料仕上げのため物理的な力のかかる床タイルなどは作成不可。

    ③光源が違う場合、色調がずれるケースがある。

     (自然光と室内光で違って見えてしまう。)

    ④改修工事で洗浄を行う場合は、予め同じ薬品で洗浄したサンプルに合わせる必要がある。

素材となるタイルに特殊塗装で色合わせを行いますので、微妙な焼き上がりの違いがもたらす、色ズレが起こりません。

そんなに上手く色が合うのかと思われるでしょうが、全く問題の無いレベルに仕上がって来ます。

答えは「合うまでやるから。」(矢口社長談)です。

経年により劣化したタイルは、控えタイルでも色が合わない事がありますが、ヤグチ技工の技術力は経年の変色による風合いも再現します。

ただ、高度な作業ゆえに、年間制作量が限られてしまいます。

ご検討頂く際にはあらかじめお問合せ下さい。

 

床タイルの防滑塗装『ホゴコンエースMS-F』『コロンバン』 ~アプローチやエントランスホールの転倒事故防止に~

マンションの顔となるエントランスホールやアプローチ周辺は、意匠性の高い塗材や石材パネルなどが施工されている例が多いので、改修仕様も多岐にわたります。

床面にタイルや石材が使われている物件も多いのですが、磁器タイルや御影石、大理石のような水をはじく床材は、表面が水で濡れると摩擦力が失われ滑りやすくなります。

乾いているときは滑らないため対処が遅れがちですが、大怪我の原因ともなりますので、大規模修繕工事の際には項目に加えておきたい工事です。  

防滑の方法には大きく分けて、防滑塗膜を被せるものと基材自体に防滑処理を施すものがあり、『ホゴコンエースMS-F』は前者、特殊透明硬質骨材+アクリルシリコン塗膜をタイル表面に塗付して防滑効果を付与するもので、『コロンバン』は後者、酸性または中性の薬剤でタイルや石材といった基材表面にミクロン単位の凹凸を作り摩擦係数を高めるという原理です。

どちらも正しい施工により十分な防滑効果は得られますが、『ホゴコンエースMS-F』は塗膜タイプのため風呂場やプールの様に水分が残留しやすい箇所には不適で、『コロンバン』は施工時に使用した水の処理が必要になるなど、使用する場所や施工条件等について十分検討する事がポイントになります

 

その他、タイルに関わる色々な改修工法 ~洗浄から剥落防止工法まで~

タイル自体のメンテナンスとしては洗浄が一番ポピュラーですが、大きな建物になれば当然大変な工事になります。

一般的には酸性の洗浄剤を使用し、汚れによって酸の強弱を使い分けます。

酸性が強い方が当然汚れが落ちやすいのですが、基材のタイルに影響を与えやすくなり、弱すぎると思ったように汚れが落ちないので、事前のテストが必須となります。うっかり酸洗いをしてしまうと大変な事になるラスタータイルには用途に適した中性の洗浄剤を使用します。

この他、タイルの剥落防止としては、意匠性を損なわず機能を持たせた㈱ダイフレックスの『エバーガード』の様な剥落防止工法がいくつかありますが、専門性が高いため責任施工となっています。

また、タイル張り替えの項目で触れたタイルの陶片浮きの改修方法として、張り替えずに注入を行うコニシ㈱『ボンド MGアンカーピン工法』がありますが、こちらも責任施工の工法になっています。