知って安心、学んで使える!これからのアスベスト戦略
知って安心、学んで使える!これからのアスベスト戦略
かつて建築や産業界で重宝されたアスベスト(石綿)は、耐熱・断熱・耐摩耗性に優れる一方で、現在では重大な健康被害を引き起こすことが明らかになっています。
本記事は、有害性の基礎から調査のレベルと方法、除去・保管・運搬・施工の実務、必要機材、現場での注意点、法的ポイント、よくある質問までを日本の現場向けに体系化。
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この記事のポイント(要約)
- アスベストは吸入が主経路。石綿肺・肺がん・悪性中皮腫・びまん性胸膜肥厚など長期潜伏の重篤疾患を招く。
- 解体・改修の事前調査は工事金額に関わらず義務。書面・目視・サンプリング分析を組み合わせ、結果は届出・掲示・周知。
- 調査・施工は対象建材のレベル(1〜3)で要求が変わる。レベルが高いほど封じ込め・隔離・負圧管理が厳格。(レベル1>レベル2>レベル3)
- 除去時は湿潤化・負圧除じん・3室型前室などで飛散を最小化し、HEPAで捕集、ダブルバッグで封緘。
- 廃棄物は特別管理産業廃棄物。マニフェストで追跡、表示・保管・運搬は法令に適合させる。
- PPEはDS2/RS2以上の防じんマスク+タイベック®防護服+手袋+靴カバーが基本。フィットテストは必須。
- 最後は清掃・空気中濃度測定・クリアランス確認で完了判定。
アスベスト(石綿)とは?—性質・種類・使われていた場所
アスベストは天然の繊維状けい酸塩鉱物で、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)などに分類されます。繊維が極めて細く、耐熱・断熱・耐薬品性に優れるため、かつて建築から工業製品まで広範に利用されました。
主な使用例(建築・設備)
- 外装仕上塗材:吹付タイル、リシン、スタッコ、下地調整材
- 吹付け材(断熱・耐火):吹付け石綿、吹付けロックウール(石綿含有)
- 成形板:スレート板、ケイカル板、成形保温材、ビニル床タイルなど
- 保温・断熱:ボイラー・配管の保温材、ダクト継手、パッキン・ガスケット類
- 屋根・外壁:波形スレート、サイディングの一部古材
築年数の古い建物(とくに1970〜1990年代建築)では、改修・解体で飛散リスクが高まるため、工事前の確認が不可欠です。
アスベストによる健康被害(詳説)
アスベストは吸入が主な曝露経路。体内に入った繊維は排出されにくく、10〜40年の長い潜伏期間を経て疾患を発症することがあります。
主な疾患
- 石綿肺(じん肺):慢性炎症と線維化が進み、労作時呼吸困難や乾性咳嗽を呈します。
- 肺がん:長期曝露でリスク増大。喫煙は相乗的に危険度を上げるため禁煙が重要。
- 悪性中皮腫:胸膜・腹膜などの悪性腫瘍。少量曝露でも発症報告があり、予後不良。
- びまん性胸膜肥厚:胸膜肥厚で胸部圧迫、呼吸機能が低下。
曝露リスクの特徴
- 症状出現までが長く、発見時には進行している例が少なくない。
- 低用量・長期間曝露の蓄積でもリスク増。
- 職業性に限らず、周辺住民曝露も課題。
予防の核心は、工事前の徹底調査と、作業中の飛散抑制です。曝露の可能性があれば、定期健診・画像検査などでフォローを。
なぜ「事前調査」が必須なのか — 法規制と届出の要点
日本では、解体・改修工事時の事前調査と届出が義務化されています。目的は、作業者と周辺環境の健康保護、飛散防止、適正処理の担保です。
代表的な関連法規には、労働安全衛生法、石綿障害予防規則、大気汚染防止法などがあります。
アスベスト調査の「レベル」と方法の全体像
調査および以降の施工は対象建材の性状(飛散性)に応じてレベル1〜3に区分され、求められる措置が異なります。以下は現場理解のための整理です。
| レベル | 代表建材 | 飛散性の目安 | 調査の典型 | 施工の典型 |
|---|---|---|---|---|
| レベル1 | 吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール | 最も高い | 図面・台帳確認+目視+サンプリング分析(必須) | 厳格な隔離・負圧管理、湿潤除去、3室前室、クリアランス測定 |
| レベル2 | 保温材・耐火被覆材などの成形・半成形材 | 中程度 | 図面・目視+必要に応じ分析 | 隔離・負圧・湿潤化・養生徹底、清掃・確認測定 |
| レベル3 | 外装仕上材、ビニル床タイル等の成形板 | 比較的低い(非飛散性) | 図面・目視中心、必要に応じ分析 | 破砕回避・湿潤化・低速解体、封じ込め・封緘 |
※一般の戸建住宅はレベル3建材のみの場合が多い
調査手順(入口〜確定)
- 机上調査(書面調査):図面・仕様書・竣工台帳・改修履歴を確認。
- 現地目視:仕上げ・下地構成、劣化状況、改修痕、露出部を確認。
- サンプリング:粉じん化最小化、湿潤化+局所養生、採取部は修復。
- 分析:PLM(偏光顕微鏡)、位相差・分散染色、SEM-EDX、XRD等。
- 判定と報告:結果を現場掲示・関係者へ周知、必要届出へ。
チェックリスト(調査前)
● 設計図・改修履歴の入手 ● 露出部の有無確認 ● 試料採取計画 ● 安全対策(局所養生・湿潤化・PPE) ● 分析機関の手配 ● 利害関係者周知
除去・封じ込め・囲い込み:最適工法の選定
アスベスト対策は大きく除去(Removal)、封じ込め(Encapsulation)、囲い込み(Enclosure)に分かれます。工期・コスト・将来の改修計画・リスク評価を総合して選定します。
除去(Removal)
- 利点:将来の改修・解体時の不確実性が減る、管理負担の低減。
- 注意:飛散リスクが最も高く、厳格な隔離・負圧・湿潤化・清掃が必須。
封じ込め(Encapsulation)
- 表面に固化剤・封じ込め材を用いて繊維飛散を抑制。
- 劣化・損傷部や将来の改修予定がある場合は適合性を検討。
囲い込み(Enclosure)
- 板金・ボード・カバーで物理的に隔離。構造上の制約・貫通処理部の納まりに注意。
安全な施工の基本フロー(現場標準)
- 計画:工法選定、隔離区画図、動線、機材配置、電源・換気計画、緊急時手順。
- 届出・掲示:法令に基づき所定の期間・様式で届け出、現場掲示と周知。
- 区画・養生:ポリシート多層+テープで気密化、前室(3室)を設置。
- 負圧管理:負圧除じん装置(HEPA)で換気回数(ACH)と風向を維持。
- 湿潤化:界面活性剤希釈水などで常時湿潤、乾式作業の回避。
- 作業:低速・破砕回避、局所集じん。中間清掃を挟み飛散を最小化。
- 清掃・回収:HEPA掃除機→拭き取り→目視確認を反復。
- 廃棄物封緘:厚手ポリ袋の二重封緘、表示ラベル添付。
- 完了確認:目視+空気中濃度測定(クリアランス)。
- 撤去:養生の内→外の順に除去、飛散や再汚染がないよう管理。
ACH計画のヒント:作業区画の体積(m³)と装置能力(m³/h)から換気回数を算出し、所定以上の負圧と風下排気を確保します。
必要機材とPPE(個人用防護具)—現場で何を使う?
主要機材
- 負圧除じん装置(HEPA):連続運転で負圧維持、フィルター差圧管理。
- HEPA掃除機:乾拭きNG、常にHEPAで回収。
- 噴霧器:微粒化した湿潤水を安定供給。
- 前室設備:汚染室・シャワー室・更衣室の3室構成。
- 測定機器:差圧計、粉じん計、気流確認用資材。
PPE選定(目安)
| 区分 | 推奨例 | 備考 |
|---|---|---|
| 呼吸用保護具 | DS2/RS2以上の防じんマスク(状況によりRS3) | フィットテスト必須、髭は密着阻害 |
| 身体防護 | タイベック®等の防護服、袖口・足首をテーピング | サイズ選定と破れ確認、交換ルール明確化 |
| 手指保護 | ニトリル手袋(ダブル推奨)、袖上から被せる | 破損時の交換基準 |
| 足部 | 防滑安全靴+ディスポ靴カバー | 前室での脱着動線を厳守 |
| 眼・顔面 | 密閉ゴーグル/フルフェイス型 | 曇り対策、清拭ルール |
廃棄物の保管・運搬・処分—マニフェストで追跡
保管
- 二重袋(内袋・外袋)+完全封緘、厚み規格に適合。
- 袋と保管場所に明確表示(アスベスト廃棄物)。
- 転倒・破袋防止、雨水・流出入対策、第三者立入防止。
運搬・処理
- 許可業者による収集運搬、荷崩れ・破袋防止措置。
- マニフェストで処理完了まで追跡、保管期間の管理。
- 最終処分場での適正処理(受入基準を事前確認)。
空気中濃度・クリアランス測定の考え方
作業中・作業後は、空気中濃度測定で飛散の有無を客観確認します。一般に位相差顕微鏡(PCM)や透過電子顕微鏡(TEM)等の手法が用いられ、クリアランス基準を満たすことが隔離解除の条件となります。
現場での注意点とありがちなNG行為
- 乾式作業(乾いた状態での削り・切断)は原則厳禁。
- 負圧装置の停止・電源断は避ける(バックアップ電源を検討)。
- 養生破れ・隙間の未補修は飛散の原因。
- PPEの誤脱着は二次汚染に直結。前室ルールを徹底。
- 掃き掃除・ブロアは厳禁。必ずHEPA吸引→湿式拭き。
コミュニケーションと周知
住民・テナント・近隣事業者には、工事概要・期間・安全対策・問い合わせ窓口を事前に周知。苦情・不安の芽を早期に摘み、信頼を確保します。
費用・工期・品質を左右する要素
- 対象面積・部位数・構造の複雑さ
- レベル(1〜3)と隔離スケール
- 搬出動線・積替えの有無、敷地制約
- 測定頻度・クリアランス基準・やり直しリスク
- 雨天・温湿度・夜間制限等の外的条件
確度の高い事前調査と詳細な施工計画が、結果的にコスト縮減と短工期、品質確保につながります。
Q&A:よくある質問
Q1. どの建物にアスベストが含まれている可能性が高い?
1970〜1990年代に建築・改修された建物。吹付け材・保温材・スレート板・床材などは特に注意。2006年9月以降に着工したものは調査対象外
Q2. 調査は誰ができる?
特定建築物石綿含有建材調査者など資格者による実施が前提。
Q3. 自分で除去してよい?
不可。法令に基づく許可・届出・機材・PPE・測定・廃棄手続きが必要で、許可業者に依頼します。
Q4. 廃棄物のラベリングは?
袋・保管場所に「アスベスト廃棄物」と明示。ダブルバッグで破袋防止、マニフェストで追跡。
Q5. 近隣への説明は?
工期・方法・安全対策・連絡先を事前説明。騒音・粉じん・搬出動線も案内し、掲示を行う。
ミニひな型(例)
周知文テンプレ(掲示用)
【工事名】アスベスト含有建材除去工事 【工期】YYYY年MM月DD日〜YYYY年MM月DD日 【作業時間】8:00〜17:00(予定) 【施工方法】隔離・負圧管理・湿潤化・HEPA清掃・クリアランス測定 【安全対策】前室設置、PPE着用、空気中濃度監視、廃棄物は二重封緘 【連絡先】〇〇株式会社 TEL:00-0000-0000(現場責任者:□□)
調査サンプリング簡易SOP
- 局所を養生し、霧吹きで湿潤化。
- 必要最小限採取、採取跡を補修。
- 二重封入しラベル貼付(試料ID・採取位置・日時・採取者)。
- チェーン・オブ・カストディ(引継書)に記載し分析機関へ。
注意・免責
本記事は一般的な解説です。最新の法令・自治体運用・基準値・届出様式は、必ず公式情報で確認してください。案件ごとに状況が異なるため、詳細は専門家にご相談ください。
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